――心臓が止まっても、呼び掛け続けてください
『トモエ・・・トモエ!』
――他の機能は停止しても聴力だけは最後まで機能しますから
『ありがとう、楽しかった!本当に幸せだったよ!』
――きっと、聞こえてますから
『楓はちゃんと育てるから!絶対に守るから!』
――声を掛け続けてください
『トモエ、愛してる!ずっと愛してる!!』
『愛してる・・・愛してるから・・・だから・・・』
――ご臨終です
『幸せ、だった・・・ありがとう』
ちゃんと、聞こえてるよ
「・・・じ・・・さ・・・・・・・・・じ、さ・・・ん・・・」
遠くから声が聞こえる。
小さくて聞き取れない。
「・・・おじさん・・・・・・おじさん・・・」
おじさんなんて言う奴、一人しかいねぇ
でも、こんなに哀しげな声は聞いたことがない
目を開こうとしたが、全身の感覚が朧気で、瞼が縫いつけられたように重くて開けない
何だよ、辛気くさい声出してって笑ってやりたかったけど、喉が乾いたように張り付いて
動かない。一定の間隔で喉に吹き込まれる酸素のせいで、息苦しい
「・・・虎徹さん」
こんな時に名前呼ぶなよ、らしくねぇじゃねぇか
「虎徹さん」
手を握られる感覚は分かるが、握り返す力がない
多分、全身麻酔を打たれてるんだろう。痛みは感じない
バニーちゃんがこんな声出すんだ、今の俺は相当ヤバいんだろう、な
「・・・・・・僕はまだ、許した訳じゃないんです・・・」
うん、ごめんな、って今言っても、伝わらないし、許してくれないんだろう
「一発殴らないと許せないんです」
じゃあ、尚更目覚めらんねぇな・・・
「あれだけ相棒だって、パートナーだって、構ってきたのに・・・いざとなったら信じて
くれないなんて・・・」
ごめん、信じてたんだよ
信じてたけど、心配だったんだよ、相棒だから
お前がジェイク見た途端に暴走しないか、って
・・・こんなところで相棒って言っても言い訳じみてるよな
「信用されてなかったことが辛くて悲しくて・・・頭にきて・・・辛辣な態度を取ってしまった・・・」
いや、俺が逆の立場なら、お前みたいに怒ってたと思う
だから、気にすんなよ
「まだ・・・謝ってないんですよ・・・」
いいよ、謝らなくて、お前の気持ちはもう十分に伝わったから
ごめんな
「・・・謝ってない、し・・・好きだ、って・・・気持ち、伝えてないんですよ」
そっか。それは初耳だな
「伝えてないから・・・だから・・・まだ、死なれたら困るんですよ・・・」
それは、ちょっと保証・・・できない、かな
「僕たちには、もっと・・・ちゃんと、話し合う必要があるんです。
互いのことを分かり合う必要が。
それを教えてくれたのはあなたじゃないですか」
うん
「僕たちは相棒なんです、バディなんです。
だから、ちゃんと生きてください。
目覚めて、一発殴って、謝って、僕を見て、話をして、ちゃんと・・・
ちゃんと・・・あなたと向かい合いたいんです」
うん
「フられたって構いません。それでも伝えたいんです。好きだって」
うん
「この声が聞こえてるか分からないですが・・・いいです、聞こえてなくても・・・」
ちゃんと聞こえてるよ
「だから、僕は生きて戻ってきます」
あぁ
「生きて、ジェイクを捕らえて戻ってきます。
もちろん、あなたの分まで、目一杯殴ってきて」
うん、ありがとな
「だから、あなたはちゃんと目を覚まして、僕の話を聞いてください」
僅かな感覚から、より強く手を握られるのが分かった。
「・・・行ってきます」
行ってこい、と声を掛けることもできない。
その手を握り返すこともできない。
目を開いて、その姿を捉えることもできない。
でも、今の俺は、聞くことだけはできるから・・・
だから、お前はちゃんと生きて帰ってこい
俺は俺で、今やるべきことをやるから
手のひらに感じる熱がそっと離れるのが分かった。
だから、俺は意識を、ゆっくりと手放し、深い闇に落ちていった。
死に向かうためじゃない
もう一度、目覚めるために
2011.06.22 しゅう
12話を観て。何番煎じと言われようがどうしても書きたかった!!
人間は心配停止してから脳が停止するまで、聴覚が最後まで機能する、と聞いていたので。