ストレッチ










目の前にビデオカメラがある。もちろん、レンズはばっちりこちらを捕らえてる。
無機質なカメラのレンズがこちらをじっと見詰めている。この場には不釣合いなほどに。
そして、今自分の後方には小憎たらしい後輩がいる。いる、というのはこの場合正しくない。
後方から、後輩が、突っ込んでいる、だ。
ベッドの上でまっぱにされて、バックから遠慮なしにガンガン腰振ってきやがる。
綺麗な顔して、普段はこんなことには興味ありませんみたいな素振り見せるくせに、今は
この顔見ただけで女何人孕ませられるんだろうって位にエッロい顔して流れる汗も気にせず
快感を貪ってやがる。
振り返って確認した訳じゃないが、息遣いで分かるんだよ。っていうか今の俺は振り返られる状態じゃねぇ。
ベッドに突っ伏して、シーツ噛んで声殺すので必死だ。なんでって?決まってんだろう!
顔を上げたら目の前にあのビデオカメラがあるからだ。しかもばっちり録画中。ですよね。





どうしてこうなったんだろう





『お前さん、随分と身体柔らけぇんだなぁ』

苦手なデスクワークをさっさと終わらせ、いつもの様にジムに移動した。
柔軟もそこそこに筋トレでも始めるか、とフロアマットから立ち上がろうとしたその時
ふと隣を見れば相棒兼後輩のバニーが180°に開脚し、前屈していたのだ。
あぁ、綺麗に開脚できんだな。
なんて、ぼんやり考えながら、俺はマシンに座ってバーベルを持ち上げ始めた。それから
背筋を鍛えるマシンに移っても、バニーは丁寧に身体を解している。
その姿があんまりにも絵になるもんだから、なかなか脳裏から離れなくて、トレーニング終了後
シャワーブースの前で、顔を合わせたとき、ふと、口にしてしまったんだ。さっきの台詞を。

「お前さん、随分と身体柔らけぇんだなぁ」

一瞬、きょとん、とした表情を見せたものの、すぐに「えぇ、キックを武器にするなら柔軟性も大事なので」
とか「そもそも貴方が堅すぎるんですよ、頭もね」とか「筋トレにしろ実践にしろ十分に柔軟しておかないと
万が一怪我したときに受け身が取れにくい」とか「おじさんが十分に柔軟せずにトレーニングとか怪我する
ようなものだ」とか「大体貴方は準備運動だけでなく何をするにも大雑把なんだから・・・」とか立板に水を
流すように小言を並べやがったから、言うんじゃなかったと後悔しつつ、そそくさとロッカールームに
移動した。

「聞いてますか!?」
「はいはい、聞いてますよー」

そんな生返事が気に食わなかったのか、眼鏡越しにこちらを睨む視線がよりキツくなった気がする。
普段は自分から他人に関わることはしないこいつが珍しい。
いや、もしかして俺に相当鬱憤が溜まってるとか?だろうな。
深い溜息が一つ、それが会話の終了の合図だった。
お互い言葉を交わすことなく黙々と着替え、じゃあな、と別れの挨拶をするより先に腕を引かれた。
「大事な話があります」
そういって有無を言わせない態度で連れて行かれたのはバニーの自宅だった。ただでさえ何もない
その部屋を突っ切って、向かったのは寝室。
そこに唯一存在するベッドに突き飛ばされるような形で座らされた。

「で、大事な話ってなんだよ?」
「今日こそおじさんに柔軟の大切さを叩き込んであげますよ」

そういって眼鏡の奥が怪しく光ったのを、俺は見逃さなかった。





大体、俺はノンケで既婚者で子持ちだ。今の今まで女性としかセックスしてこなかった。
足開くのは女性側であって、俺が足を開く必要なんてなかった。
だから人一人が入れる程に足を開くことも、女性性器よりも奥にある後孔を晒すために腰を丸める
必要もなかった。
それが今やこの相棒とセックスするようになって、この硬い身体を何とか開いて容赦なく腰を
打ちつけられる羽目になったのだ。開かない足を何とか開くものの、次の日股関節がギシギシ
痛むのが情けない。騎乗位にしても跨るのに一苦労で、集中して腰を振ることが出来ずに
お互い焦れったいまま終わる。
結局、楽な姿勢のバックで、となって、3回連続バックになったらとうとうバニーがキレた。

「経験豊富なおじさんがバックだけとか冗談でしょう」

そう言って俺をうつ伏せにさせると、後ろ手で縛り上げてきやがった。
何をするんだ、と振り返ろうとしたその時、顔の横を何かが通り過ぎる。

「バックがお好みならそれでもいいですけどね。
ですが、僕も貴方のいい顔が見たいんで、撮らせてもらいますよ」

そうして目の前に置かれたビデオカメラ。

「セックスビデオを撮られるのが嫌なら、さっさと身体を柔らかくして色んな体位で
楽しませてくださいよ」

そういって悪魔の様に笑ったバニーを見て、俺は本気で背筋が凍るのが分かった。





ぬるるるる、と太いものが抜けていく感覚に、背筋がぞくぞく感覚する。
排泄に似た感覚、というだけではない。この後訪れる衝撃に身体が勝手に震えるのだ。
パンッ、と打ちつけられる衝撃に身構えるが、訪れたのはそれとは逆の浅い部分をクチクチと
擦る感覚だった。一瞬、ホッとしたものの、既に開発されてしまった孔は、来るはずの快感が
来ないことが不満なのか、もっと奥へと誘うようにうねる。
それが恥ずかしくて誤魔化すように腰を揺すった。だが、それが裏目に出たらしい。

「ここ、好きなんじゃないですか?」

腰を高く突き上げるような姿勢では、当然相手に結合部を晒すことになる。
そこに突き刺さるような視線を感じ、羞恥で居たたまれなくなった。

「う・・・るせぇ・・・」
「あぁ、もしかしてもっと激しく突いて欲しかったんですか?厭らしいなぁ」

そういって結合部分を撫でられると、きゅうっと孔が締まるのが分かる。

「気持ちいいんですね、よかった」
「それよりっ・・・ビデオ消せ、よ・・・」
「駄目です。こっちは貴方の身体が硬いせいで、いい顔を見れずに我慢してるんです。
本来ならば貴方のどこをどうすれば悦ぶのか調べられるのに、バックでしかさせてくれないお陰で
学習できないんですよ。だから・・・」

そういってバニーの手が、突っ伏していた俺の額に触れ、持ち上げると、カメラの前に顔を突きだした。

「僕のために、カメラの前で素直に啼いてください」

再び激しくなった腰の動きに、俺は声を殺すことが出来ず、言われるがままに声を上げてしまった。
後ろから聞こえる水音と自分の聞いたことがない女々しいような喘ぎ声に死になくなった。

「やめ・・・っろ!」
「ビデオ?それともセックスですか?」
「りょ・・・ほ、う・・・」
「仕方ないですね」

そういって額を押さえていた手が外れ、ビデオカメラを手に取るのを確認して、小さく息を吐いた。
だが、そんなに簡単に引き下がる男ではない。

「じゃあ、今日はバックから撮りますね」
「ばっ・・・!?」

振り返ればビデオを手にレンズをこちらに向けたまま、腰の律動を再開したのだ。
もう、完全にお手上げ、だ。


揺すぶられ、快感で遠のく意識の中、バニーの言葉が耳に残った。

「撮られるのが嫌なら、さっさと身体柔らかくして僕を悦ばせてくださいよ」





その日から、俺は毎朝ストレッチをするようになった。
あいつのためじゃない、俺のため、だ。










2011.05.08 しゅう

初めての兎虎でいまいちキャラが掴めてない感じが… 後日おじさんの柔軟性の高さが発覚しました。
だが後悔はしていない!