Yum yum!




















強烈な朝日がやがて穏やかな陽気に変わる頃、温いシーツの中でふと目覚める。何時だ、と鳴るはずのない目覚まし時計に手を伸ばせば午前十時をちょっと過ぎた頃。素晴らしきかな休日。ヒーローに休暇はいらないとは言っても毎日ベストを尽くすためにはたまの休みは必要だ。

今までシーツの中で温まっていた腕が外気に触れて、寒さで鳥肌が立ったから慌ててシーツの中に戻した。どこまでも温かくてぬくいシーツの中、未だぼんやりしている目を何度か瞬きして焦点を合わせれば、向かい合うようにして眠っている美しい青年が一人。

しっかりと筋肉がついた肩がゆっくり上下して、未だ深い眠りの中にいることを示している。シーツに負けないくらいの真っ白い肌と金糸の様な艶のある髪が日の光できらきらと光っていた。

この美しい青年が自分の恋人だなんて世の中まだまだ分からないことだらけだ。

起こした方がいいのか?と一瞬悩んだもののやめた。二部リーグへの突然の復帰から一部への昇格により、ヒーロー業務だけでなくメディアの仕事も一気に増え、今日は久々の休みだってことで昨晩思った以上に励んでしまった。

本来ならば一刻も早く寝た方が体の為なのに、どうしようも我慢できなくて、ヤったらヤったで止められなくて結局、空がうっすら明るくなるまでヤってしまった。だから、バニーも相当疲れてるだろう。

俺は体力には自信があるし、バニーも若いとはいえ、連日の多忙なスケジュールと昨晩の運動と寝不足はさすがにキツいはずだ。穏やかな寝息は深く、もうしばらく寝かせてやろう、  そう思い起きない程度に顔中にキスの雨を降らせる。

愛しい愛しい恋人。思った以上に惚れ込んでいる自分がいて恥ずかしさがこみ上げてきたけど、それはキスで誤魔化した。キスの雨を受けても未だスヤスヤと眠る恋人の鈍さに苦笑しつつ、俺はベッドを抜け出した。

起きるまでにブランチの準備をしておこう。その前にシャワーだ。昨晩の運動のせいで汗やらなんやらで体中がべとべとするから、先にさっぱりしてから朝食の準備に取りかかることにした。

寝室を抜け出してシャワールームに向かうとザブザブとお湯を浴びて体を洗う。脱ぐ必要のある服なんてものは着てなかった。そう、パンツですらも。昨日の晩…いや明け方体力の限界までヤって下着をつける余力さえ残っておらずそのまま寝たから、寝室からここまで全裸だ。ごめんな楓、パパついに裸族になっちまったよ。

バニーがセレクトしたボディソープの泡は雑に泡立てたにも関わらずすぐにもこもこに泡立っていい香りがする。それを濡れた肌の上で滑らせて洗い流せばあっという間にすべすべ肌。ついでに歯も磨いて、シャワールームを後にする。入ったときとは違い、今度はちゃんとパンツは着用して台所へと向かった。

「さてと、ブランチはどうすっかな」

そういえば、賞味期限が今日までの食パンがあるからトーストと…あとどうするかな、なんて冷蔵庫を漁ってみる。卵…タマネギ…チーズ…と食材を確認していると、ふと緑の物体が目に留まった。あぁ、ピーマン一個しかないし早めに使いきらないと、と思った瞬間に今日のブランチのメニューが決まる。タマネギとピーマンを取り出し、タマネギはトースターでも火が通るように透けるくらいの極薄切りにして、水を張ったボールに入れて辛みを抜く。ピーマンは輪切りだ。冷凍庫から小分けして冷凍していたベーコンを取り出す。このまんまパキパキ折って切ることも可能だけど、常温で解凍すれば多分バニーが起きてくる頃には自然解凍出来てるだろう。レタスをちぎって別の氷水を張ったボールに浸けておけば、調理し始める頃にはシャキッと戻ってるはずだ。ついでにトマトも冷やしておこう。

冷蔵庫を開けてピザソースがあるか確認するものの、そんな都合のいいものは入ってない。ならば、マヨネーズとケチャップで代用すればいいか。チーズはスライスじゃなくて酒の摘み用で買ったレッドチェダーとゴーダチーズだから、包丁で薄くスライスしてラップをかけて戻しておく。準備した材料を各々皿に載せてラップをかけて再び冷蔵庫に戻した。パンもバニーが起きたときにスライスして、あとは全部乗っけてトースターで焼けばいいだろう。

思った以上にあっさり準備が出来てしまって拍子抜けしてしまう。まぁでも、ブランチだしこんなもんか。

さて、王子様は未だ夢の中かな。

寝室の扉を開けて聞こえてくるのは当然深い寝息。寝相一つ変えずにぐっすりだ。