手のひらの上の恋人




















俺はバニーのことが好きだ、割と、本気で。

好きというより愛しちゃってる感じだ。

好きだからこそ不安になることもあるし、他の女性に嫉妬するときだってある。自分の現状を再認識して本当にバニーの隣にいてもいい人間なのか、悩んだり落ち込んだりする程度にバニーのことを愛してる。自分の気持ちに気付いたときには伝えるつもりもなかったし、墓にまで持っていく覚悟でいた。

なのに、何というか、こんなこというのもくすぐったい感じがするが、奇跡が起きて、俺達はお互いに想い合っていることが分かって、恋人になることが出来た。

今は亡き嫁さんとの結婚を決めたとき、俺はもうこの人だけだと思い、巴が亡くなったときは独り身になってももう絶対に嫁さん以外の誰かに恋心を抱くことはないって決めた。だからこそ悩んだし、葛藤した末に掴んだこの恋は、そう簡単に終わらせたりしない、そう心に固く誓っていたわけだが。


だが…


だが、付き合って早三ヶ月。
もう既に俺は挫折しそうだ。


別にバニーが嫌になったって訳じゃない。

あいつはいい奴だ。

ハンサムだし賢いしちょっとプライドが高いところがあるけど素直だし、仕事には真面目だし、人との距離の掴み方はまだまだ拙いけどそれでも上手く周りと接してる。KOHにもなったばかりで、だがそれを鼻にかけることなくしっかりと任務をこなしていく。

何より、周りには求められているバーナビー・ブルックスJr.像を崩すことなく対応してるけど、二人っきりになると等身大のバニーになって甘えてきてくれるところは本当可愛くってどうしようもない。

朝の寝ぼけてぽやぽやした表情も、朝食のパンがお気に入りのベーカリーのパンではなかったときの拗ねた口元も、湯船に浸かりリラックスした表情も、世間には見せないありのままのバニーをひっくるめて、バニーのことを愛してる。

だけど、そんな中で俺の心に一つ、不安が芽生え始めてきた。


バニーのセックスが淡泊すぎるのだ。


付き合った当初の好き過ぎてどうしていいか分からないしそもそも男同士のセックスにおっかなびっくりしてた頃は確かに週一、しかも翌日が休みでないとなかなかに難しかった。だけど、男同士のセックスにも慣れ、準備の時間も多少は短くなり、週末の夜の時間の中に自然にセックスが馴染んでいった今でさえ、バニーは律儀に週に一度、翌日が休みである金曜か土曜の晩にする、というルールを守っている。

別に俺がそうやって決めた訳じゃない。バニーが自分からそう提案してきて、俺はそれに同意したまでだ。

確かに最初の頃はやたら準備に時間がかかったし、翌日の昼頃になっても痛みが引かないときがあったからその提案は有り難かったし、何よりそうやって気遣ってくれるバニーの気持ちが嬉しかった。

だけど、それで喜んでいられたのも、最初の一ヶ月だけ。

二ヶ月目には行為に慣れて、単純にセックスにかける時間も短くなってしまったし、平日に恋人同士のスキンシップをしたくてもお互いその気にならないように、出来るだけ親密度の低いスキンシップしか出来なかった。そうして日々心の中に募っていく不安と寂しさ。

毎日一緒に朝起きて、一緒に仕事して、一緒に飯食って、一緒に眠るということは出来ても、それ以上の触れ合いが出来なくて、気持ちが徐々に冷めていくのが自分でも分かる。


そして、トドメの一撃。
バニーのセックスが単純過ぎるのだ。


週末の夜、互いにシャワーを浴び、なんとなく寝室に向かい、二人でベッドに入り、キスをして、後ろの準備をして、お互いゴム着けて、挿入して、お互いイったら終了。

もしバニーがイって俺がイけなかったら、バニーが手でしてくれて、お互い一度射精しておしまい。

吐精後の倦怠感をやり過ごして、お互いシャワーを浴びたら、再びベッドに入って就寝。

それが毎回、それ以外の行為が増えることも、減ることもなく、テンプレート通りにこなされ、終わる。多少の変化はあったとしても、それはキスの激しさか挿入してからの時間が長いか短いか程度の差だ。それ以外はいつも同じように行われていく。


おかしいだろ、どう考えても。
これじゃ愛してるからセックスしたいっていうより、半ば義務だからヤってるって感じに近いだろ。


確かに最初の数回はそのテンプレート通りでも必死で手いっぱいで、終わる頃にはぐったりしてたけど、でもそれは本当に最初だけだ。今はもう、終わってシャワーを浴びてても、ベッドに横になってバニーにおやすみのキスをして、バニーも俺にキスしてくれて、隣から穏やかな寝息が聞こえる頃にはどこか物足りなさを感じる始末。

三十路の俺でさえこんなに物足りなさを感じてるのに、二十代前半のバニーがこれで満足してるとは到底思えない。

考えられるとしたらバニーが男同士のセックスにあまり乗り気じゃないんじゃないか、ということだ。そりゃ異性相手と違って、ヤりたくなっても直ぐには出来ないし、準備は大変だ。リスクも多いからどうしてもゴム着けなきゃいけないし、しかも相手は三十路の髭生えたおっさんだし、ソソる要素は皆無。

だけど、じゃあこれからって時のバニーの熱っぽい視線や必死なキス、それにちゃんと勃つものが勃ってるところをみると、その可能性は低いのかなって思ってる。

じゃあなんだ?やっぱりあれか?


俺に飽きたのか?


いやいやいやだってまだ三ヶ月…と否定しようとしても、心の奥で否定しきれない自分がいた。

だよな、だってこんなおっさんだもんな。

セックス一つにしても色々面倒だし、話だって合わないことが良くあるし、育ってきた文化とかも違うから一緒に生活しても口論するようなことよくあるし…もしかしたら、もう既にバニーは俺への気持ちが冷めていて、でもきっぱりと別れるのは罪悪感があるから、徐々に距離を取って…って感じなんじゃないか。

それならそれで、ちゃんと話し合って改善できるところは改善して、そうしてちゃんとお互い続くように努力していきたいって思う。

だってそれが恋人ってもんだろ?