We'll fall down
そうしてある日、夢を見た。
トレーニングルームのランニングマシーンで走っているときのように汗を流し息も荒いバニーに組み敷かれ、抱かれ、絶頂を迎える夢だ。
俺が抱くんじゃない、俺が抱かれる方だった。
ベッドに仰向けに押し倒され、照明がつけられたままの部屋で欲望のままに俺の体を貪るバニーを見上げていた。そこにあるのは嫌悪感でもなんでもなく、どうしようもない愛おしさでいっぱいだった。
眩しいほどの朝日が射し込む中、ぐっしょりと汗をかいた状態で目覚め、十数年ぶりに感じる不快なパンツの中の感触に戦々恐々しながらそっと中を覗いて確かめてみれば、現実にも絶頂を迎えてしまっていた。
やっちまった…
片思い、そう三十半ばのおっさんの拙いけど純情な片思い。
それだけだったらまだ笑い話にもなるのに、さらにその相手に抱かれる夢を見て夢精しました、なんて、もう冗談にもならない。おかしいだろ、色々と。冷えていく頭とは裏腹に、体はまだ熱を持っていて、あの夢の内容を、自分を抱く裸のバニーを思い出すだけで喉が鳴って腰が甘く疼いてしまう。
その感覚を誤魔化したくて、慌てて汚れた下着を脱いで残滓で濡れたそこを下着の汚れていない部分で拭うとそのままバスルームへと向かった。たったパンツ一枚…だが、これを放っておくと後でカピカピになって酷いことになるのは重々承知してるし、かといってこのまま捨てて新しい下着を買うほどの金銭的余裕もない。仕方なく、このたった一枚のパンツを洗剤と共に洗濯機に放り込んで運転ボタンを押す。動き出したことを確認してから、自分が今たった一枚身につけていた寝間着代わりのTシャツを脱ぎ捨てるとさっさと浴室に入る。
普段より少し熱めの温度に設定して、降り注ぐシャワーを頭から被った。どこかぼんやりとした意識がしっかり覚醒する程の熱めのお湯が頭から足首へと伝い、流れ落ちていくと同時に自分の肌に残っていた夢の記憶が流れ落ちていくような気がして、少しだけ冷静になれた気がする。
そうして全身汲まなく熱いシャワーを浴びて、しっかり肌が濡れる頃になって、やっと股間を直視できるようになった。
さっきは驚きと戸惑いのせいで直視できず、その淫媚な夢のせいで汚れたその現状を見てしまえば最後、ショックで何か大切なものを失いそうな気がして、慌てて目を反らしたままパンツで拭ってしまったのだ。先ほどまで粘着質な液体が絡んでいた感覚も消え、熱いお湯で洗われ、僅かにだが、触れればほんの僅かにぬめりを感じる程度。もう一つの証拠である下着は今まさに洗濯機の中で証拠を隠滅している最中だ。
残るぬめりを取りたくて、触れた指先をそのまま添えると敏感な肌にまとわりつく感覚を拭うように触れた、次の瞬間。
「…っふぁ……んっ…」
お湯で熱くなった手でぬるつくそこを擦られ、しかも敏感な鈴口が熱いシャワーの滴に当たったせいで、予想外の快感に声が漏れてしまう。
慌てて手を離すものの、熱いシャワーの滴を浴び続け、さっきの夢精の余韻が残る体は否が応にも反応してしまう。徐々に首をもたげる現金なソコに我ながら呆れつつ、今度は石鹸を手に取り、両手でしっかり泡立てると、もう一度ソコに触れる。
洗うため。そう、さっきの夢精の後始末だ。
鈴口に入ると滲みるから、そこは避けるようにして根本から先端までたっぷり泡をまとわせて、汚れを落とすように手のひらで包み、擦りあげる。
さっきの塗るつきとは違う柔らかい泡の感覚にぞわぞわと肌が波打つのがわかった。
これは自慰じゃない、洗ってるんだ。
そう自分に言い聞かせながら根本から先端までしっかり洗うのに、自分の意志とは反対に、手つきは徐々に早くなり、知らず知らずのうちに自分の良いところを刺激し始める。
「……は、ふ…ん……ふぁ…」
堪えきれずに熱い吐息を漏らしても、シャワーの水音が掻き消してくれる。誰にも知られず、誰に見せるわけでもなく、一人高みに上っていく。徐々に激しさを増す手の動きと浴び続けている熱湯のせいで、思考もぼんやりとしてきた。
そういえば…
こんなことになったのはバニーとヤる夢を見て、夢精した訳だが、あれは本当に自分が見せた願望なんだろうか?
自分は本当にバニーに抱かれたいと思ってるんだろうか?
バニーに抱かれて夢精してしまったほど、あいつの事好きなんだろうか?
たまたま夢精して、その時に夢にでてきたのがバニーってだけじゃないのか?
本当に俺はバニーでヌけるのか?
次々に湧いてくる疑問に、真実が知りたくなった。俺は、バニーのことが好きなのか?性的な意味で抱かれたいと思っているのか?
しごきあげる手をそのままにバニーの表情を思い浮かべる。メディア向けのキラキラした王子様スマイル、普段のクールな表情、ふとした時に見せてくれる肩の力が抜けた、はにかむような笑顔、それから…
それから…
犯人を確保し終わった後の、フェイスを上げた状態で見せる勝ち誇ったような男らしい表情。
その表情を思い浮かべた瞬間、腰に甘い痺れが走る。
後は、トレーニングルームで真剣にストイックなまでに走り続けるバニーの横顔。汗を流し、息が上がっているその姿は夢の中で自分を犯しているときのバニーとそっくりで…
そう考えてしまうと、もう手は止まることなく一気に激しくなる。脳裏に描くバニーの姿は先ほどまでのいつも見ているバニーではなく、夢で見たような自分で作り上げた妄想で形作られた荒々しく自分を犯すバニーだ。
犯人確保後、あのちょっと自慢げで、俺を挑発するように口角を上げた笑みで、伝う汗も拭わずに一心不乱に俺を抱くバニーに、心臓がドクンと大き高鳴るのを感じた。
その胸の熱さと同時に、甘く痺れるような絶頂を迎える。
手の中で感じるびゅくびゅくと吐き出す感覚からなかなか収まらない射精に戸惑いが隠せない。普段なら一度射精すれば収まるはずの熱が、何故か今日は二度も出したのにも関わらず、まだ体の中には小さな火が灯っているようだった。
吐き出すと同時に上から降り注ぐシャワーのお湯に流されてしまったから実際どれだけの量を吐き出したのか分からないが、だが手のひらで出した感覚だと普段の一度目とそう変わらない量だ。
呼吸を落ち着かせつつ、残滓を吐き出すようにしごいて、まとわりついていた石鹸の泡も洗い流す。
そうしてやっと体も頭も綺麗さっぱり冷静になったところで改めて今起きた現実を受け止める。
俺はバニーのこと好きなんだろうか?
降り注ぐシャワーの熱い湯を浴びながらひたすらに考え込むものの、リビングに起きっぱなしの携帯が出勤十分前のアラームを鳴り響かせ、結局答えがでないまま慌ててシャワーのコックを捻った。