いつか、















カラン

冷たく澄んだ音にハッと意識を取り戻した。
音の発信源である目の前のグラスは、既にたっぷりと汗をかき、グラスの上三分の一は溶けた氷のせいで透明な水とコーヒーの濃いカラメル色の美しいグラデーションを作っている。
あーあ、ここのコーヒー美味いのに勿体無いことしたな…
いつもの癖でストローの先端は既に歯形でボロボロに潰れているが、気にすることなくストローを摘んでぐるぐると撹拌する。それまでの美しいグラデーションはあっという間に消え、その代わり全体的に先ほどに比べワントーン薄くなった。そのままストローを咥え、一口飲む。予想以上に薄くなったコーヒーの味はなんとも言えずぼやけている。
そう、ぼやけている。
ゴールドステージの職場の近くのオフィスビルの建ち並ぶ一角で、街路樹が眺められて美味いコーヒーを出すこの店が自分のお気に入りだ。ゴールドステージに染まらないレトロな店内に落ち着いた雰囲気は、日々の喧騒を忘れさせてくれる。
本当なら毎日通いたい所だが、仕事柄そんな風に自由に時間が使える訳じゃない。だから、僅かにでも出来た自由な時間、ここでゆっくりコーヒーを飲むのが楽しみだった。
なのに、そんな楽しみと言えるコーヒーの存在を無視して、自分は別のことで頭がいっぱいになっている。
何気なく見上げた窓から見える空。雨の気配はないものの、ずっと曇っていて、なんとなく青空が見たくなってきた。そんな時、空にかかっていた雲がさぁっと切れて、光と共に青空がのぞいた。それを見て、何かが浮かんだ。何かに似てると思った。
はっきりとした答えが出ずに、この薄まったコーヒーの様にぼやけた思考で考え続けていた。
だが、グラスの中の氷が揺れた瞬間、答えが分かった。
バニーだ。バニーの笑顔だ。
 答えが分かったと同時に、自分の中のある感情に気付く。

あ、俺…バーナビーの事、好きだ…

馬鹿みたいな考えに、でも、自分は驚きもしなかった。もうずっと前から答えを知っていたのかもしれない。だけどそれを認めるのには勇気がいるからそれを分からないフリをしていたんだと思う。ぼんやりとした思考の中に、澄んだ高い音が響いて、自分の中の素直な感情がふ、と表にでてきた。
俺、バーナビーの事が好きだったんだな
それも、随分と前から
もう一度、自分自身に心の中で問いかける。先ほどまでのモヤモヤが消え、自分の中にすっとその答えが落ちていくのが分かった。